今月紹介する本~4月~
今月紹介する本
【君たちはどう生きるか】を読んで
キーワード:貧しい友人の話
『コペル君、君も大人になってゆくにつれて、だんだんと知ってくることだが、貧しい暮らしをしている人というものは、たいてい、自分の貧乏なことに、引き目を感じながら生きているものなんだよ。
自分の着物のみずぼらしいこと、自分の住んでいる家のむさ苦しいこと、毎日の食事の粗末なことに、ついはずかしさを感じやすいものなのだ。
もちろん、貧しいながらちゃんと自分の誇りをもって生きている立派な人もいるけど、世間には、金のある人の前に出ると、すっかり頭があがらなくなって、まるで自分が人並みでない人間であるかのように、やたらペコペコする者も、決して少なくない。
こういう人間は、無論、軽蔑に値する人間だ。金がないからではない。こんな卑屈な根性をもっているという点で、軽蔑されても仕方がない人間なのだ。しかし、コベル君、たとえちゃんとした自尊心をもっている人でも、貧乏な暮らしをしていれば、何かにつけて引け目を感じるというのは、免れがたい人情なんだ。
だから、お互いに、そういう人々に余計なはずかしい思いをさせないように、平生、その慎みを忘れてはいけないのだ。
人間として、自尊心を傷つけられるほど厭な思いのすることはない。貧しい暮らしをしている人々は、その厭な思いを嘗めさせられることが多いから、傷つきやすい自尊心を心なく傷つけるようなことは、決してしてはいけない。
僕たちも、人間であるからには、たとえ貧しくともそのために自分をつまらない人間と考えたりしないように、また、たとえ豊かな暮らしをしたからといって、それで自分を何か偉いもののように考えたりしないように、いつでも、自分の人間としての値打ちにしっかりと目をつけて生きてゆかなければいけない。
貧しいことに引け目を感じるようなうちは、まだまだ人間としてダメなんだ。
なぜかというと、今の世の中で、大多数を占めている人々は貧乏な人々だからだ。そして、大多数の人々が人間らしい暮らしができないでいるということが、僕たちの時代で、何よりも大きな問題となっているからだ。』
著者:君たちはどう生きるか 編著:吉野源三郎
今回紹介する本は、吉野源三郎氏の「君たちはどう生きるか(マガジンハウス)」です。この本は戦前に発行されたものですが、戦後、そして今の時代でもたくさんの方に読まれている本です。
何でも揃う今の時代、貧乏という言葉を多用することは少ないと思います。しかし、貧困の格差と呼ばれるような状況が続いている中、弱者と呼ばれる人たちの生きづらさが深刻な問題となっています。
障害があることにより、暮らしづらさ、生きづらさを抱えながら賢明に生活をされている方々に対して、寄り添う支援とは何か、本当に求められていることは何かを常に考え、綺麗事ではすまない様々な課題を一緒に悩み、そしてひとつでも解決できるように、スタッフを中心に地域で支えてくださる皆さんと一緒に、障害の有無に関わらず、目の前にいる「その人」の生き方、暮らし方を尊重し、互いに支え合いながら生活が営まれる社会を目指したいと思っています。
この本を読んでみて、弱い立場にある人であっても、人間としての価値は、決して劣るものではないこと、そして、何事においても、他人事ではなく自分事として考えることの大切さを感じました。
スタッフの皆さんに、これからの支援のあり方について考えていただくきっかけになればと思い、この本を紹介させていただきました。