今月紹介する本~11月~
今月紹介する本
【とんび】を読んで
最愛の人の死を受け入れ、懸命に生きていく親子の未来は…
アキラが3歳になったある日、妻・美佐子は事故で帰らぬ人となってしまう。突然の二人きりの暮らしとなったヤス(父)とアキラだったが、幼馴染の照雲とその妻・幸恵、そしてヤスの姉のような存在であった小料理屋の女将・たえ子らが、アキラを息子のように可愛がり、アキラを、そしてヤスを全力で支えてくれていた。
だが、未だ悲しみが癒えないヤスは、ある夜、照雲の父である海雲に、「わしみたいなもんは生まれてこんかったらよかったんじゃ」と、ぶつけようのない悲しみを吐露する。それを聞いた海雲は、雪の降る瀬戸内の夜の海へ、ヤスとアキラ、そして照雲を連れてきた。
寒さが沁みる中、アキラにかけていた毛布を取らせると、「アキラ、お父さんにもっとしっかり抱いてもらえ。顔と腹は温いだろう。それでも背中は寒い。お母ちゃんがおったら背中を抱いてくれた」と、その寒さを背負うことが、母親を亡くしたアキラの運命だと諭す。
さらに照雲と共にその背中に手を当て、自分たちのように、母の代わりに愛してくれる人が大勢いることを優しく伝えた。
「アキラ、おまえはお母ちゃんがおらん。ほいでも、背中が寒うてかなわんときは、こげんして、みんなで温めてやる。おまえが風邪をひかんように、みんなで、背中を温めちゃる。ずうっと、ずうっと、そうしちゃるよ。ええか、『さびしい』いう言葉はじゃの、『寒しい』から来た言葉じゃ。『さむしい』が『さびしい』『さみしい』に変わっていったんじゃ。じゃけん、背中が寒うないおまえは、さびしゅうない。のう、おまえにはお母ちゃんがおらん代わりに、背中を温めてくれるものがぎょうさんおるんじゃ、それを忘れるなや、のう、アキラ…」
そしてヤスには、「海は、なんぼ雪が降っても、知らん顔して黙って呑み込んどるわ。アキラに悲しみを降らすな。ヤス、お前は海になれ。お前は海にならんといけん」と、愛のある言葉で励ます。
「雪は悲しみじゃ。悲しいことが、こげんして次から次に降っとるんじゃ、そげん想像してみい。地面にはどんどん悲しい事がつもっていく。色も真っ白に変わる。雪が溶けたあとには、地面はぐじゃぐじゃになってしまう。おまえは地面になったらいけん。海じゃ。なんぼ雪が降っても、それを黙って、知らん顔して吞み込んでいく海にならんといけん」
(中略)
「アキラが悲しいときにおまえまで一緒に悲しんどったらいけん。アキラが泣いとったら、おまえは笑え。泣きたいときでも笑え。二人きりしかおらん家族が、二人で一緒に泣いたら、どげんするな。慰めたり励ましたりしてくれる者はだーれもおらんのじゃ」
著書:とんび 著者:重松清より引用
今回紹介する本は、重松清氏の『とんび(角川文庫)』です。
ご存じの方も多いと思いますが、累計発行部数60万部を超えた小説で、ドラマ化・映画化された本です。
ガサツな乱暴者だけど温かいハートを持っているヤス(父親)には、心強い仲間がいて、ヤスの大人として欠けている部分を上手に埋めていき、母親がいないというハンデを乗り越えて、アキラは優しくて優秀な子に育っていく中で、母親の死の真実とヤスの嘘、反抗期や進学による巣立ち、就職、結婚とどんどんヤスの手から離れていくアキラ、和尚さんの説教やアキラ君の作文…
まさに「とんびが鷹を生む」という心暖まるストーリー。
専門書や自己啓発本など自分のスキルやモチベーションアップのための読書ではなく、純粋に物語を楽しむことができる小説を読んでみるものいいですね。秋の夜長にぜひ小説を読んでみませんか。