今月紹介する本~5月~
今月紹介する本
【人は、皮膚から癒される】を読んで
失われた皮膚の交流
近年は親しい人たちとの生活の場であるコミュニティが崩壊し、その一方で欧米流の「プライバシーの保護」が重視されるようになり、互いに干渉しないことをよしとする風潮が強まった結果、人との境界感覚はさらに強まった。また、暗黙の信頼関係をベースに営まれてきた人間関係は、相手を信頼しないことを前提とした関係、すなわち契約関係に置き換わっていった。
それに追い打ちをかけるように、近年ではSNSの普及によって、面と向かって交流しない関係も急速に増えた。そこでは境界としての皮膚の感覚を介さず、直接的に情報が目から脳にインプットされる。あらかじめよく知っている人との間のSNSの交流ならまだよいが、それでも日常的なディスコミュニケーションは常に起きている。もちろんこうしたツールは、便利なコミュニケーション手段であり、否定することはできない。しかしその便利さや気楽さに慣れてしまい、面と向かっての交流が面倒だと感じるようになってしまったとしたら、どうだろうか。直接的に触れたり、近くで寄りそったりして境界の感覚を拓くことで起こる「心の反応」は、人としての生きがいや尊厳を保つために本質的な意味を持つと思う。何より心が弱ったとき、心を癒してくれるものだと思う。
親が子どもに望む性格特性の上位は、以前と変わらず「思いやり」や「人に迷惑をかけない公共心」であり、「責任感」や「正義感」を望む米国とは異なっている。
そうであれば多くの人との境界を拓いて、人との関わりに全幅の価値を置く社会を目指すことが、日本人としての幸福を追求する上で必要なことではないだろうか。誰もが傷つき弱さを抱えながら生きている社会では、そのような対人関係の質がもっと求められる時代なのだと思う。
日本人は、「個人主義」でもなく、「集団主義」でもなく、人間は互いに依存し合って生きざるを得ないのだから、その関係を前提にして、自他を生かしていこうというのが、日本人の基本的価値観であり人間観である。
相互に信頼し助け合う価値観が日本人の「間人主義」
著書:人は、皮膚から癒される(㈱草思社)著者:山口創より引用
今回は、山口創さんの著書「人は、皮膚から癒される」を紹介させていただきました。読みやすくてわかりやすく書かれていて気づきの多い本でした。
まず人の境界のあやふやさという視点、人の境界と大地の境界と大空の境界は1本の線で引けるものではなく、流体として混ざり合っているという視点は面白かったです。他にも、自分というものは皮膚の内面だけにとどまらず、自分の境界はあわくて伸び縮みするもので、周囲の人であったり、家屋であったり、土地であったりを含むということであったり、人の不調は自分1人のなかで解決されるのではなく、人と人との間で解決されていくということ。そして境界が自分の皮膚の内面だけに固まって閉ざしてしまうと人間は病むが、皮膚という境界を開いてくことで人は癒されるという視点も納得でした。
互いに支え、支えられながら、皮膚感覚で相手を感じながら生きていくことの大切さに気付かされた本でした。