今月紹介する本~7月~
今月紹介する本
【言語の社会心理学~伝えたいことは伝わるのか~】を読んで
高橋:うちの娘は男ですよ。
松村:そうですか。うちの娘も前は男だったんですが、今度が女です。
会話をどうやって成り立たせるのか(共通の基盤)
若い女性であるしおりさん、めぐみさんが話している。二人は会社の同僚である。
しおり:あなたはブタね。
めぐみ:そうよ、わたしはブタ。ブタは最高だよ。
この会話をどう思われるだろう。めぐみさんはしおりさんから面と向かって「ブタね」と言われたのに、何のショックも感じないようである。そしてにこにこしながら、「最高だよ」とまで付け加えている。
ここでは、会話のシチュエーションが問題なのである。場所は夕方のお好み焼き屋さんで、二人は何かを注文しようと、メニューを見ている。そこには、「イカお好み焼き」「牛お好み焼き」「ブタお好み焼き」などが並んでいる。これで難なくお分かりだろが、この会話は省略せずに表現しようとすれば、
しおり:あなたはブタのお好み焼きを注文するんだね。
めぐみ:そうよ、わたしはブタのお好み焼きを注文するよ。
ブタのお好み焼きは最高だよ。
とでもなるだろう。しかし、実際はこんなまどろっこしい言い方はしないと思う。
コミュニケーションがうまく成り立っていくためには、話し手と聞き手の間で、知っていることや仮定することが一致する必要がある。つまり、双方が伝えようとする基盤に共通性が必要なのである。読者がしおりさんたちの会話に接したとき、この基盤に接していなかった。しかしいったん基盤が判明すればどうということのない話である。後で示したパラフレーズより先の会話のほうがずっと普通であろう。回りくどいことを言わずに、会話がスムーズになっている。
冒頭の会話もそうである。「高橋さんと松村さんの娘さんがそれぞれ最近出産した」と状況を説明すれば、何を言っているのか容易に理解していただけるだろう。
著書:言語の社会心理学~伝えたいことは伝わるのか~(中央公論新社)
著者:岡本真一郎より引用
今回は、岡本真一郎さんの著書「言語の社会心理学」を紹介させていただきます。
この本は、一見すると不自然な会話も当人たちは何の問題もなくコミュニケーションがとれている。私たちはことばを文字通りに使っているわけではなく、話していないのに伝わることもあれば、丁寧に説明しても誤解されることもありますよね。そういったことを社会心理学という視点で、伝えたいことを伝えるためのヒントがたくさん書かれている本です。エピソードもたくさんのっているので、気づきを促すようなコミュニケーション研修としても役立つ内容だと思うので、現場リーダーの皆さんにはぜひ読んでいただき活用されることをお勧めします。