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今月紹介する本~2月~

今月紹介する本

【手の倫理】を読んで

リスクが人を生き生きさせる

 

介護福祉士の和田行男は、認知症の高齢者がともに生活を営むグループホームを営んています。和田はこの施設に夜間以外は鍵をかけません。つまり、入居するお年寄りが、施設から自由に出入りできるようになっているのです。もちろん、扉にセンサーをつけ、必要に応じて職員が付き添うなど、安全対策はきちんとなされています。周囲の「目」がある範囲内で、お年寄りの自由度が確保されている。そうすることで、ふつうの家に近い状態で生活することができるのです。

「ふつうの生活」がなされている証拠に、入居しているお年寄りたちは、自分でできることは自分で行います。洗濯、掃除どころか、買い物に行き、料理もします。包丁も握るし、火も使うのです。

いくら安全対策がなされているとはいえ、周囲からすれば不安も残るでしょう。「ふつうの生活」にはさまざまなリスクがともないます。実際、目を離したすきに入居者さんが外出してしまい、長時間行方不明になってしまうケースもあったそう。「鍵をかけないのは危険だ」という批判も当然寄せられます。

それでも、和田は認知症のお年寄りを信じようとしました。確かに、鍵をかけ、行動を制限すれば事故などのリスクは減ります。けれども、それは生きていることにならないのではないか。和田は介護現場の現実をこう述べます。

 

とどのつまり、本人が椅子から立とうとすると「危ないから座っていてください」と行動を制止し、本人がどんなに頑張っても立ち上がることができないようなソファーを置いてそこに座らせておいたり、施錠して出ていけないようにしたり、物を隠して触れないようにする、薬物を使うなどの手を打つことになるのです。

すると家族等が一番望む「安全な生活」は担保できたとしても、自分の意思を行動に移すという人としてのステキな姿は消え失せ、そのことからくる混乱は増し、動かないことによる心身の活動性低下や能力の衰退が合わさって起こるなど、「生き生きとした姿」を失うことにつながりかねないのです。

 

安心が前提にする、社会的不確実性がゼロの状況とは、先にも指摘したとおり、確実にコントロールできているということを意味します。相手の行動が予測可能なものになっていて、こちらからするとリスクがない。「相手の行動によってこちらがひどい目にあう」ということがないわけですから、自分と相手の関係も固定されることになる。それは、制御し、支配する関係です。

けれども和田は、どこまでもお年寄りを制御したり支配したりしないようにする。なぜなら、生きることはそもそもリスクを伴うことだからです。もちろんさまざまな工夫によって、リスクを最小化することは重要ですし、和田もその点に関しては細心の注意を払っています。けれども、相手が意思を行動に移すとき、必ず想定外のことは起こる。だからこそ和田は、お年寄りの力を信じ、「想定外」がゆるされるような生活の場を整えようとするのです。

 

                    著書:手の倫理 著者:伊藤亜紗より引用

 

 

今回は、伊藤亜紗さんの著書「手の倫理」を紹介させていただきます。

一方向的な「さわる」から、共鳴・信頼の通路となる「ふれる」へ。

「touch」の日本語訳は「さわる」と「ふれる」だが、「逆鱗にふれる」とか「神経にさわる」など、微妙に表現のニュアンスが異なる。さわったり、ふれたりする触感は手だけではありませんが、人間関係という意味で主要な役割を果たすのはやはり手です。さまざまな場面における手の働きに注目しながら、そこにある触覚ならではの関わりのかたちをまとめられた本でした。
 人と接する仕事をされている方は、是非手に取って読んでみてください!

 

豊かな記憶がその手に蓄積されている

【手に歴史あり】

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